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■「中央調査報(No.802)」より

 ■ 世界的な脱炭素化の進捗評価と今後の脱炭素化政策の方向性


東京大学大学院新領域創成科学研究科
 国際協力学専攻非常勤講師
 阿由葉 真司


 世界気象機構(WMO)は2024年6月に「2023年は過去最も熱い年であり、世界の気温は今後5年の間に産業革命前に比較して一時的に1.5℃を超える」と発表1した。再生可能エネルギーの導入が世界的に進展するなど脱炭素化政策が積極的に導入されているものの、世界的な温暖化は収束する気配を見せていない。本稿は世界全体及び主要国の脱炭素化の進捗を概観・評価し、今後の脱炭素化政策の方向性について論じることを目的とする。


1.COP28とグローバル・ストックテイク
 COP29の開催が近づいていているので鮮度が落ちてしまうが、前回のCOP28の主要論点であるグローバル・ストックテイクについて取り上げたい。ストックテイクとは「棚卸し」を意味する英単語であり、過去からの一連の行動などの進捗を評価する際に使われる。気候変動におけるグローバル・ストックテイク(GST)とは各国の温室効果ガス(GHG)排出量の削減実績の評価を意味する。2015年に締結されたパリ協定第14条2においてその実施が規定されているが、それを基にCOP28においてパリ協定批准後初のGSTが実施された。COP28の決議文3では、カーボンバジェット(炭素予算)の考え方に基づき「2050年ネットゼロを実現するためには、二酸化炭素(CO2)排出量を2019年比で2030年43%削減、2035年60%削減することが必要であることを認識すべき」ことが明記された。
 2030年に43%削減という数字は、日本政府がコミットしている現行の「国が決定する貢献(NDC)」の「2030年46%削減」目標と比較すると緩い目標水準に見えるが、そうではない点に留意する必要がある。というのは日本の現行NDCの基準年が2013年であるからだ。GSTのこの削減目標を日本のNDCに換算すると、2013年比で2030年に52%削減、2035年では66%削減に相当する。従って、日本政府は2025年2月に予定されている次回NDC提出時にはもう一段踏み込んだ削減計画を検討する必要がある。更に、GSTで発表された目標は世界平均であり、先進国の一員である日本はこの数字以上の削減貢献が求められることも予想される。日本のCO2排出削減の進捗とGSTの目標の関係を可視化したものが図表1である。
 図表1を見ると日本のCO2排出量は2013年の1,251百万トンをピークに減少に転じている。初回NDCは2030年までに2013年比でCO2排出量を46%削減することを明記している。この数字が676百万トンである。ピーク値の1,251百万トンと目標値の676百万トンと結んだ直線と実績CO2排出量を比較すると、日本の実績CO2排出量はこの計画線に沿って減少していることが分かる。このようにNDC対比では、今のところ日本は計画通りに脱炭素化が進んでいると言える。しかし、GSTを基にすると、日本はもう一段踏み込んで脱炭素に取り組む必要がでてくる。GSTが基準とする2019年時点の日本のCO2排出量は1,058百万トンであり、これを基に60%削減された2035年時点のCO2排出量は423百万トンとなる。また2030年に必要とされるCO2排出量は2019年比43%減の水準であることから603百万トンとなる。これは2013年を基準年とした初回NDCの2030年目標の676百万トンと比べると73百万トン低い数値であり、削減率に換算すると2013年比52%減に相当する。現行NDCの2030年目標削減率は46%減であるため、追加で6%ポイント削減をする必要がある。2013年を基準にすると現在のCO2排出量は20%減となるが、目標達成まであと26%ポイントが残される中、更に6%ポイント追加削減することは容易ではないことが想像できよう。
 GSTの野心的な目標は気候関連財務情報開示にも影響を与える。特に日本においては、多くの上場企業が自社の2030年時点のGHG排出量に係る削減目標を現行NDCの目標と同水準である46%減としているが、この目標値について近い将来52%減よりも大きい値が課されることが予想される。企業にとっても追加で6%ポイント以上の削減を2030年までという限られた時間の中で実現することは野心的と言えよう。

図表1 日本の実績CO2排出量とGSTを踏まえた必要削減量

2 .主要各国のCO2削減進捗比較
 次に、同じ基準で他国のCO2排出量の削減評価を行う。2030年の排出目標に関して米国は2005年基準で50%削減、EUは1990年基準で55%削減をコミットしている。一方、パリ協定批准各国が2021年に提出した初回NDCの基準年は、各国が自国の排出量のピーク年を使うなど一致しないため削減進捗の比較は難しい。よって日本のNDC基準年である2013年を基準年として米国とドイツのCO2排出量の削減進捗を比較したものが図表2である。
 図表2の破線で示された各国の2030年の数値は2013年時点の各国の実績CO2排出量を100として2030年の目標排出量を指数化したものである。これにより各国の目標排出量が比較可能となる。具体的には日本の2030年の目標排出量は54.0となる。欧州のNDCの削減目標はそのままドイツの削減目標と同値であるためドイツの2030年目標排出量は55.3、米国の2030年目標排出量は56.5と表せる。このように2030年の削減目標の水準は日本、ドイツ、米国共に2013年基準で換算すると45%減前後であり、各国ほぼ同水準であることが分かる。
 次に、各国のCO2排出量の削減実績や予想値を評価する。先ほど説明した図表2の破線は各国の目標排出量に到達するための計画線と言え、この計画線(破線)に実績値(実線)や予想値(一点鎖線)が近ければ近いほどその国のCO2排出量の削減がNDCと整合していると評価できる。
 まず実線の実績排出量の推移を見ると、日本やドイツは破線の計画線に沿ってCO2排出量を削減できているが、米国は2021年時点の実績値は90.4と計画値(79.5)を大きく上回っている。次に各国における実績削減率が2030年まで継続した場合に得られる2030年の削減予想値と目標値との差異をみると、日本では約5%ポイント、ドイツは約6%ポイントの目標未達が予想される一方、米国では20%ポイント以上の未達が予想される。特に、CO2排出量で世界第2位の排出国である米国においてもCO2排出量が減少に転じていることは、世界全体のCO2排出量の削減の観点では朗報であるが、NDC目標に対して未達となることは、パリ目標の実現が更に困難になることを意味する。

図表2 米国・ドイツ・日本のCO2排出量削減比較

3 .世界全体のCO2排出量削減状況
 世界全体のCO2排出量削減はどうなっているのであろうか。国際エネルギー機関(IEA)が発表するCO2排出量統計を基に長期的な世界全体のCO2排出量の推移を示したものが図表3である。2019年及び2020年はコロナ禍の経済活動低迷により一旦減少に転じたものの、2021年の世界全体のCO2排出量は経済活動再開もあり増加に転じ342億トンとなった。しかし長期的には世界全体のCO2排出量は徐々に増加幅が縮小し、2015年以降はほぼ横ばいで推移している。
  2000年から5年毎の世界全体のCO2排出量増加率の推移をみると、2000年~ 2005年は3.1%/年、2006年~ 2010年は2.4% /年、2010年~2015年は1.1% /年、2015年~ 2020年は▲0.4%/年となり、この20年間でCO2排出量の増加率は大幅に鈍化している。更に、主要排出国のCO2排出量は減少に転じているため世界全体のCO2排出量は直近でほぼゼロ成長となっている。2000年から2005年の5か年の増加率が2021年まで継続した場合の世界全体のCO2排出量は448億トンに達し、2021年のCO2排出量の1.3倍の水準になる。この間、世界全体の名目GDPは2.8倍に拡大4している。過去20年の世界的な再生可能エネルギーの導入の積極化などの脱炭素化努力等により経済活動とCO2排出量のデカップリングに成功しつつあることは評価しても良いであろう。

図表3 世界全体のCO2排出量の推移

4 .パリ目標との整合性と潜在的温度上昇
(1)炭素予算
 前節では日本、ドイツ、米国のCO2排出量の削減度合いをNDCとの比較で評価したが、世界的にはパリ目標との整合性の観点で評価することが主流である。この評価の基となる考え方は炭素予算と呼ばれる炭素排出許容量である。
 気候変動に係る政府間パネル(IPCC)は2100年時点で気温上昇を1.5度未満に67%の確率で抑制できる炭素予算は400ギガトン5、50%の確率で抑制可能な炭素予算は500ギガトンと推計している6。世界全体の年間GHG排出量は現状約50ギガトン/年であることから、GHG排出量が現状水準を維持した場合、図表4で示したように8年程度で炭素予算を使い切ってしまうことが分かる。このことは踏み込んだ炭素排出量削減手段を導入しない限り2030年前後に1.5℃シナリオの達成が不可能になることを意味する。IPCCは2023年3月に発表した第6次統合報告書で「1.5℃シナリオ実現にはこの10年が非常に重要」と発表し、GHG排出量削減に係る一層の取り組み強化を求めている背景には、こうした科学的事実がある。

図4 基本的特徴×「主体的に学習に取り組む態度」の高さ(東京)

(2)黙示的気温上昇(ITR)スコア
 IPCCは2018年に発表した「1.5℃特別レポート」で、1850年以降の地表温度の変化と1876年以降の累積CO2排出量の間に比例関係があることを指摘7している。米国海洋大気庁(NOAA)も過去80万年に亘る超長期においても大気中のCO2濃度と気温変化は比例関係にあることを示唆している8。この気温変化とCO2排出量の間の線形関係を数式で示したものがTCRE乗数である。TCFDのThe Portfolio Alignment Teamは2021年に発表した「Measuring PortfolioAlignment: Technical Report 2021」9では、このTCRE10乗数が0.000545 ℃ /GtCO2であることを紹介している。これは大気中に追加的に10億トンのCO2が排出されると気温が0.000545℃上昇することを意味する。
 この乗数と国際エネルギー機関(IEA)が発表する気候シナリオに基づく世界全体の予想CO2排出量を基に、企業や国のCO2排出量の削減計画を温度上昇に換算することができる。この指標は黙示的温度上昇(ITR)11スコアと呼ばれ、気温上昇を1.5℃以内に抑制するパリ目標との整合性を評価する指標として活用されている。例えば、図表5に示したように日本政府のNDCのITRスコアは1.8℃となる。1.5℃シナリオに整合するためには、もう一段階の削減努力が必要であることが分かる。
 ITRスコアの具体的な計算方法は次の通り。ここではIEAのNZEシナリオを1.5℃シナリオとする。2021年の日本のCO2排出量を基準年としてNZEシナリオと同じ割合でCO2排出量が削減されると仮定し、2050年まで各年のCO2排出量テーブルを作成する。次にNDCに基づく2050年までの各年のCO2排出量テーブルを作成する。更にNDCに沿った累積排出量(14,833百万トン)を求め、NZEシナリオに沿った累積排出量(12,820百万トン)に対する比率を求める(1.16倍)。この比率はNZEシナリオに沿った日本の累積CO2排出量が世界全体の累積CO2排出量と同じと仮定した場合の世界全体の炭素予算に対する大きさを表している。炭素予算の設定は様々な考え方があるが、ここでは435ギガトン12とする。日本のNDCに基づく累積CO2排出量を世界全体の大きさに引き直すと世界全体の炭素予算の1.16倍に相当するため505ギガトンと求められる。この累積CO2排出量を気温上昇に換算すると0.3℃となる。基準となる気温上昇が1.5℃であるため日本のNDCに基づく累積CO2排出量は1.8℃(=1.5℃+0.3℃)の気温上昇と同値と計算される。

図表5 日本のNDCに基づくCO2排出量のITRスコア

(3)ITRスコアでみた世界全体のCO2排出量の評価
 同じ方法に基づき世界全体のCO2排出量の削減度合いが導く気温上昇を推測できる。2050年まで2001年~ 2005年の排出増加率が継続し、その後一定となる場合をケース1とし、現状の世界全体のCO2排出量が継続する場合をケース2として、2100年時点の世界的な気温上昇がどの程度になるかを計算した。詳細の計算過程は割愛するが、ケース1のITRスコアは5.4℃となり、ケース2のITRスコアは2.8℃13となる。
 1.5℃シナリオの実現が強く要請されるようになった理由として、1.5℃シナリオは2.0℃シナリオよりも自然災害を抑制することが可能なことが挙げられる。前述した「1.5℃特別報告書」では、2.0℃シナリオでは洪水リスクは約3倍に増加する一方、1.5℃シナリオでは約2倍に留まる。2.0℃シナリオではサンゴ礁はほぼ絶滅する一方、1.5℃シナリオでは70%から90%の消滅に抑制できると分析している。また1.5℃シナリオは2.0℃シナリオよりも150 ~ 250万km2。の永久凍土の消失を回避可能としている。
 しかし、IPCCは1.5℃シナリオを実現できる場合においても地球環境は甚大な影響を被ることが不可避と予測している。ケース2の気温上昇が約3℃となる世界で気候変動が経済・社会に与える影響は図り知れない。この20年間でケース2の様な壊滅的な5℃を越える気温上昇の実現を回避したことは評価できるが、現時点の削減努力のみでは非常に高い確率で2.0℃シナリオを超える地球環境への甚大な影響が不可避となる。

5 .化石燃料からの脱却
 気温上昇が約3℃から1.5℃の世界へ移行するために必要な手段がCOP28のもう一つの論点であった「化石燃料からの脱却」である。決議文では「二酸化炭素排出量を2035年までに2019年比で60%減削減する」ために必要とされる8つの取り組み14の一つとして「公正かつ秩序ある公平な方法により、エネルギーシステムにおける化石燃料からの脱却(Transitioningway from fossil fuel)を図り、この重要な10年間に行動を加速させ、科学に則り2050年までにネットゼロを達成」15を掲げている。当初案では「化石燃料の段階的削減(Phase out)」を盛り込む予定であったが、様々な利害関係者の意見を反映し、最終的には「化石燃料からの脱却(Transitioning away)」と「段階的削減」から「脱却」へ表現が緩められたことは良く知られている。一方、COP決議文の中で、初めて化石燃料の使用を減少させることを触れた点では評価されている。ここでは化石燃料からの脱却の必要性について現状のCO2排出量を踏まえつつ解説することとしたい。
 図表3で世界全体のCO2排出量が横ばいになりつつある点を指摘したが、世界的にエネルギー需要が伸びつつある中、CO2排出量が増加していない理由は、主に太陽光発電や風力発電といった再生可能エネルギーの供給量増大によるものである。IEA統計によれば2000年台には世界のエネルギー構成比で数%であった再生可能エネルギーが13.1%まで拡大16している。欧州や米国、中国など世界的に再生可能エネルギーの助成策が奏功していると言えよう。また、日本エネルギー経済研究所によれば世界のエネルギー効率化は年率1%程度17とも言われている。変化率としては小さいが年1%の削減を10年間続けると10%程度の削減効果が生まれるのでエネルギー効率化の効果は無視できない。こうした世界的な脱炭素化努力により世界的な気温上昇が約5℃の世界から約3℃の世界への移行が可能になったと言える。
 しかしながら、パリ目標に掲げた1.5℃の世界を実現するためには、いままでの政策の方向性を大きく変える必要がある。今までの政策は増加するエネルギー需要を新規に導入した再生可能エネルギー等でカバーすることで、現状以上にCO2排出量を増やさないことを可能とした。これからは再生可能エネルギーを増やすと同時に、排出されるCO2の元となる化石燃料に手を付ける必要がある。これがCOPで議論されている「化石燃料からの脱却」である。
 世界全体のCO2排出量のOECD諸国と非OECD諸国の割合は32:68であり、世界全体のGDPを同じ基準で表すと61:3918になる。このようにCO2排出量は経済面でハンデのある新興国や発展途上国に遍在していることが分かる。このような国々では安価なエネルギー源として石炭を主な燃料とする化石燃料発電が主力の電力源となっている。また、こうした国々では停電が頻発するなど、エネルギー需給もひっ迫している。更に、こうした国々の発電施設は最近建設されたものが多く稼働年数が非常に若い施設が多いことも指摘できる。
 こうした事実を見るだけでも「化石燃料からの脱却」が容易ではないことが理解できる。発展途上国にとりエネルギー需給がひっ迫する中、稼働年数が若い化石燃料発電を止め、コスト高の非化石燃料発電へシフトすることは、経済的に大きな負担となることは想像に難くない。積極的な財政補助もあり再生可能エネルギーの利用は急速に拡大しているが、現時点では新規で発生するエネルギー需要をカバーする役割を担うのみであり化石燃料発電を代替するまでには至っていない。こうした状況を打破するには、化石燃料発電から非化石燃料発電へのシフトを経済的に合理化できるほどの財政支援や経済利得計算の根本を変える炭素価格の導入、またはその二つ政策の同時導入が考えられる。いずれの場合でも、いままでとは異なる次元での経済的な枠組みの変化が必要とされる。

6 .今後の脱炭素政策の方向性
 化石燃料からの脱却は世界全体のCO2排出量を横ばいから減少に転換させ、3.0℃シナリオから1.5℃シナリオに移行するために不可欠な取り組みである。しかしその実現には、世界的に主力のエネルギー源である化石燃料発電を止め、再生可能エネルギーなどの非化石燃料発電に切り替えることが必須であるが、その難易度はいままで推進してきた再生可能エネルギーの導入以上に高い。こうした状況下、今後の脱炭素化政策の方向性を考える際に参考になる指針が、上述した8つの取り組みである。
 この8つの取り組みの一つで注目に値するものが「原子力、炭素回収・利用・貯蔵(CCUS)等の排出削減・除去技術、ゼロ・低排出技術(水素製造等を含む)の開発加速」19といった、再生可能エネルギー以外のエネルギー源や、炭素回収技術や低排出技術の開発加速といったイノベーションについての言及である。気候条件等で供給能力が変動する再生可能エネルギーのベースロード電源としての弱点を補う観点で原子力発電と、一時的に1.5℃を超える気温上昇が発現する現状において、最終的に1.5℃シナリオを実現するには炭素回収技術が必須になるという観点でCCUS等が言及された点は、COPにおいても現実的な解を模索しはじめたことと解釈でき、今後の世界的な脱炭素化政策の方向性を考える上で、参考になろう。
 一方、化石燃料からの脱却に関しては、石炭発電に対して補助金停止等といった経済利得の低下による非化石燃料へのシフトを促す政策について言及されている程度で、大規模に化石燃料発電を止め非化石燃料へのシフトさせる具体的方策について言及がない。この点については国際的に合意された方向性がなく引き続き大きな論点になることを示唆している。
 1.5℃シナリオの実現には化石燃料からの脱却が必須であり、それを実現するには化石燃料発電を止める経済的合理性をいかに実現するかがポイントとなる。これが実現できない世界は3.0℃以上の気温上昇に直面することとなり、その適応のために膨大な経済的コストを払うことになる。どちらの方向に向かっても我々人類は気候変動に関して膨大なコストを負担する状況に置かれている。既に炭素価格の導入は先進各国において規定路線となっているが、炭素価格が途上国も含め世界的に導入できるかは未知数である。1.5℃シナリオの実現には、特に、途上国の脱炭素化が重要であり、途上国に経済利得がある形で化石燃料から非化石燃料へのシフトを促すか、途上国に対し化石燃料を使用しつつもCO2を排出しない方策を経済的にメリットがある形で提供できるかにかかっていると考える。この方策の実現が世界的な脱炭素化を実現する鍵を握っている。


1 WMO 2024年6月5日付プレスリリース “Global temperature is likely to exceed 1.5℃ above preindustriallevel temporarily in next 5 years” 参照。
2 パリ協定第14条第2項は「この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議は、この協定の締約国の会合としての役割を果たす締約国会議が別段の決定を行わない限り、最初の世界全体の実施状況の検討を二千二十三年に行い、その後は五年ごとに行う」(環境省仮訳)と、初回GST開催以降5年毎にGSTを実施することを明記している。
3 2023年12月13日発表。“Outcome of the first global stocktake”の5頁27段落を参照。URLはhttps://unfccc.int/sites/default/files/resource/cma2023_L17_adv.pdf。
4 IMF統計を基に筆者計算。
5 ギガトン=10億トンを表す。
6 IPCC “Climate Change 2021, The Physical Science Basis” Summary for Policymakers” 29頁TableSPM.2参照。
7 IPCC “1.5℃ special report” 105頁参照。
8 NOAA “Temperature Change and Carbon Dioxide Change” November 2021参照。
9 URLはhttps://www.tcfdhub.org/resource/measuring-portfolio-alignment-technical-considerations/。同レポート76頁参照。2℃ /3,670GtCO2=0.000545と算出される。
10 Transient Climate Responseの略。
11 Implied Temperature Riseの略。
12 NZEシナリオの2021年から2050年までの累積CO2排出量。排出量はIEA “World Energy Outlook”(2021)313頁 Table A.4dを参照。
13 計算結果は排出量が横ばいで推移する現行政策シナリオ(CPS)の温度上昇(2.9℃)とほぼ一致する。
14 “Outcome of the first global stocktake”の5頁28段落(a)から(h)を指す。筆者訳。
15 同文書5頁28段落(d)参照。
16 IEA統計を基に筆者計算。
17 2024年3月、日本エネルギー経済研究所 Chairman’ s Message “The gap between aspiration andreality: The need for Plan B"参照。URLはhttps://eneken.ieej.or.jp/en/chairmans-message/chairmans-message_202403.html
18 IMF、IEA統計を基に筆者計算。
19 “Outcome of the first global stocktake”5頁28段落(e)を参照。筆者訳。